2012年12月25日

嬉しいありがとう

ある夜勤の日のことでした。病棟から「患者さんが下血しています。すぐに来てください」と連絡がありました。急いで病棟へ駆けつけると、青白い顔、全身が冷や汗でじっとりとしています。脈が速く、血圧が下がっていました。危険な状態です。上部消化管に見つかった良性の腫瘍を前日内視鏡で切除した患者さんでした。切除部からの大量出血が予想されます。ICUへ移動することにしました。患者さんは意識が朦朧としながらも「一般病棟に残りたい。ICUへ行くなんて絶対イヤ」と抵抗しました。意識レベルが下がってきておりショック状態で時間との闘いだったので、この方の意向に背いて私の決断を強行しました。心肺蘇生をふくめてどこまで治療するべきか判断に迷うこともあります。明らかに末期がんで延命治療はいたずらに患者さんを苦しめるだけという場合もあります。そのような患者さんには機会を見つけて前もって本人や家族からの意思表示を確認するようにします。でもこの患者さんは良性の腫瘍、“救わなければならない“ケースでした。輸血をしながらICUへ移動、その後意識レベルがさらに低下、気管挿管で気道が確保されました。内視鏡当番だった医師が夜中に駆けつけ、緊急で内視鏡処置が行われました。出血している血管をクリップで止血、一命を取り留めました。後に状態が安定して、一般病棟に戻って来たこの患者さん。意識が朦朧としていたにもかかわらず、私の顔を覚えていてくれたようです。「あの時、やっぱりICUに移動して良かった。こうして生きていることが嬉しい。ありがとう」と。その日は週末勤務で一人ばたばたと走り回っていて気持ちの余裕を失いかけていました。しかし患者さんからの“ありがとう“ の一言で疲れもイライラも一瞬で消え去りました。仕事をしている中で、とても嬉しい瞬間です。夜勤中誰もが行う同じ処置、私が何も特別なことをしたわけではありません。でもこの“ありがとう“は私をとても幸せな気分にしてくれました。

25/12/2012に堀籠晶子が次のカテゴリーに投稿しました